skill を書き足しても効きが伸びない、という壁は誰にでもある。Google Research と Virginia Tech の論文は、その原因を「学びの置き場が無いこと」に見た。答えは skill の外に「Wiki (分かったことの置き場)」を作ることだ。
1 次ソース: arXiv:2608.27454 — WikiSkill: Compiling Agent Experience into Persistent Knowledge for Skill Evolution (Google Research / Virginia Tech, 2026-08-27)
skill を書き換える手前に、書き換えの材料をためる層を足す
論文の言い分は 1 文にまとまる。エージェントが得た経験は、skill とは別の「Wiki」に貯めてから skill に変えるべきだ。Wiki を挟むかどうかだけで、育った skill の成績が大きく変わった。
前提を 1 つ置く。skill の自動改訂は「解かせて、直して、測る」を何度も繰り返す。その 1 回分が、論文の言う iteration (イテレーション) だ。この解説では「0 回目・1 回目」と回数で数える。0 始まりは論文の数え方に合わせた。
著者が問題にするのは、学びの置き場が無いことだ。skill を直した理由、試して外した案、何度も再発する失敗。従来の自動改訂では、これらが skill の書き換え履歴のあちこちに散らばり、次の回で体系的に拾い直しにくい。
足したのは 1 層だけだ。作業ログを読んで「症状・原因・直し方」に整理し、消さずに貯め続ける層を挟む。著者はこの層を wiki と呼ぶ。経験を貯めて再利用できる知識にまとめよう、という AI 研究者 Andrej Karpathy の提案 (LLM Wiki) が着想元だ。
言葉の対応はこうなる。skill は .claude/skills/ に置く手順書、Wiki は手順書を直す側だけが読む資料置き場、作業ログは消さない実行の記録だ。3 つを別々の場所に置くのが提案の全部である。
出典: arXiv:2608.27454 Abstract・§1 Introduction (Karpathy の LLM Wiki への言及も §1)
実行中には読ませない材料置き場。中身は目次・症状メモ・日誌・台帳の 4 つ
作業は 3 つの役に分かれる。タスク (論文が解かせる問題) を解く「実行役」、作業ログを読んで Wiki に書く「整理役」、Wiki を根拠に skill の直し方を出す「提案役」だ (手順は 03)。Wiki を開けるのは整理役と提案役だけで、実行役には見せない。
手元の CLAUDE.md は毎回の作業中に読ませる指示書だから、見せる相手が Wiki とは逆になる。この対応づけは本解説の当てはめで、論文は CLAUDE.md に触れていない。Wiki を実行役に見せた時にどれだけ落ちるかは 05 で測る。
論文は置き場を 3 つに分ける。本解説では「戻せるか」と「誰が読めるか」の 2 軸で整理する。
| 置き場 | 中身 | 読めるのは | 戻せるか |
|---|---|---|---|
raw/ (作業ログ) | 1 回の実行を丸ごと。考えた内容・使った道具・その出力・最終回答 | 整理役と提案役 | 書いたら変えない |
wiki/ (Wiki) | 症状と原因と直し方を 1 件 1 枚。目次・日誌・採否の台帳つき | 整理役と提案役 | 戻さない (貯まる一方) |
skills/ (skill) | SKILL.md の本文と、由来を書いた PURPOSE.md | 実行役も読む | 成績が落ちたら前の版へ戻す |
Wiki の中身は 4 つに分かれている。どれも普通のテキストファイル (markdown) で、特別な仕組みは使っていない。
index.md — 1 行 1 件の目次。「問題 + 原因 + 直し方」を 1〜2 文で書くpatterns/ — 症状 1 件に 1 枚。原因・実際のコマンド列・回避策を 10〜30 行でlogs.md — どの回で何を見つけ、何を決めたかの日誌skill-impact.md — 出した改訂案が通ったか落ちたかの台帳。落ちた案の差分も丸ごと残す台帳だけは整理役が書かない。採否と差分は、実験を回す土台のスクリプトが機械的に追記する。人手でもモデルでもない記録だから、提案役はこれを「何が試されて何が落ちたか」の確かな履歴として読める。
4 つで一番大事なのは目次だ、と整理役への指示文が明記している。中身を開くかどうかを目次の 1 行で決めるからだ (指示文の原文は決める主語を「実行役」と書くが、本文 §3.2 では実行役は Wiki を読まない。実際に目次から開くのは提案役だ)。長い資料をそのまま読ませない、という発想は skill の書き方にもそのまま効く。
出典: arXiv:2608.27454 §3.1・§3.2 (3 つの役)・§3.2.4 (台帳の追記)・付録 E.2 整理役の指示文 (「目次が最重要」も同節)
解く → まとめる → 直す → 測る。通らなかった案も台帳に残る
1 イテレーションは 4 つの手順でできている。役割が 3 つに分かれていて、それぞれ見るものが違う。
提案役の読み方には順番と下限がある。最初に渡されるのは目次・台帳・練習結果の要約だけで、あとは自分でファイルを開きに行く。考える → ファイルを開く → また考える、を繰り返す進め方 (論文では ReAct と呼ぶ) だ。提案を出す前に作業ログを最低 4 本読むことが、指示文で決められている。
採点は 1 つの数字だけを見る。検証用のタスクを実際に解かせた平均点だ。同点は不合格で、厳密に上回った時だけ採用する。skill は空の状態から始まってこの 4 手順で育ち、モデルの中身は一切変わらない。
タスクの中身と規模は次のとおり。同じタスク集を練習用・検証用・本番用に分けて使う。06 以降の点数は、この本番用のタスクを解かせた正解率だ。この解説では以後、タスクを左端の日本語名で呼ぶ。
skill も Wiki も、タスクごとに別々に育てる (タスク 5 種で 5 セット)。タスクをまたいで 1 つの Wiki を共有する実験はしていない。
| タスク | 中身 | 使える道具 | 練習 / 検証 / 本番 (件) |
|---|---|---|---|
| 数学 (LiveMath) | 数学の選択問題を解く | なし | 35 / 18 / 124 |
| 調べもの (SealQA) | web 検索で事実を突き止める | web 検索・ファイル読み | 16 / 10 / 85 |
| 表計算 (SpreadSheet) | 表を加工して答えを作る | Python でコマンドを実行する (bash) | 80 / 40 / 280 |
| 長文書 (OfficeQA) | 長い文書から答えを探す | ファイル名で探す・中身を検索する・読む (glob / grep / read) | 50 / 24 / 172 |
| 家事 (ALFWorld) | 部屋の中で物を運ぶ模擬環境 | 模擬環境の行動一覧 | 39 / 18 / 134 |
落ちた案も資産になる。却下された改訂案は差分ごと台帳に残り、次の提案役が最初にそれを読む。同じ案を二度出すな、と指示文に書いてある。skill は前の版に戻るが、Wiki は戻らない。
出典: arXiv:2608.27454 §3.2・付録 C (作業ログの抽出数)・付録 E.3 提案役の指示文 (「最低 4 本」「no_action」も同節)・表 6 (タスクの内訳)・表 4 (タスクごとの skill と Wiki の統計)
0 回目で却下された 128 行が、1 回目の採用を導いた
Wiki が効く仕組みは、論文の実例を追うのが一番早い。題材は家事のタスクで、動かしたのは Qwen-3.6-27B だ。Qwen は誰でも手元で動かせる公開モデルで、27B はその大きさを表す。
点数はこの節だけ論文の表記に合わせて 0〜1 で書く (0.72 = 72%)。
0 回目、整理役は「物を取る → 調べる → 元に戻す」を繰り返す症状を 1 枚に起こした (症状メモ名は take-examine-move-loop)。同じ回に提案役が出した skill は、目的から行動を決めよという 128 行の抽象的な手順書だった。検証の点は 0.72 に留まり、却下される。
1 回目、提案役はまず台帳を読み、落ちた 128 行そのものを見た。そこから「抽象的すぎた」と診断し、具体的な行動の規則に書き換える。「物を元の場所に戻すな」という 1 行と、失敗した操作列・成功した操作列を並べた skill が、0.78 で採用された。
skill-impact.md (採否の台帳) Iteration 0: create goal-directed-action -> REJECTED @@ -0,0 +1,128 @@ (提案の差分がそのまま残る) Iteration 1: create break-repetition-loop -> ACCEPTED Iteration 4: update break-repetition-loop -> ACCEPTED logs.md (日誌) Iteration 0: Reject skill 'goal-directed-action' (val score = 0.72) Iteration 1: Accept skill 'break-repetition-loop' (val score = 0.78) SKILL.md (break-repetition-loop) Trigger: 同じ行動を繰り返しかけている時に読む Rule: Never Return an Item to Its Origin Location 失敗: take clock from desk -> examine -> move clock to desk 成功: take clock -> go to shelf -> move clock to shelf
PURPOSE.md より)改善は 1 回目で終わらない。4 回目には同じ症状の別型が新しい作業ログに現れ、整理役が証拠の行を足した。提案役はその証拠を根拠に、同じ skill へ「1 つの物に同じ操作は 1 回だけ」という規則を追記している。図が示すのは 0・1・4 回目の 3 時点だ。
採用は序盤で終わらない。通った直しのうち、最初の 2 回 (0 回目と 1 回目) に入るのは 4〜5 割 (モデルにより 39〜52%)。残りは 2 回目以降に散る。論文はこの表 5 を、05 の比較と並ぶ「Wiki が効く」根拠の 2 本目に置いている。
出典: arXiv:2608.27454 §5.2・§5.3 事例・図 3 (p.12 — 0.72 / 0.78 / +128 行 / PURPOSE.md の原文)・表 5
部品を外して測ると、Wiki を消した時の落ち込みが一番大きい
効き目を確かめるために、部品を 1 つ外して測る比べ方をしている。論文はこれを ablation と呼ぶ。外したのは Wiki を見る権利で、実行役と提案役のそれぞれに見せる・見せないを組み、4 通りを比べた。
使ったのは Gemini-3.5-Flash (Google の商用モデル) 1 つ。タスクは 4 つで、家事は入っていない。論文は除いた理由を明記していないが、このモデルは家事の検証用タスクを最初から満点で解く (§4.2)。検証用タスクが満点になった時点で育てる工程は打ち切る規則 (§3.2.4) なので、skill を育てる余地が無いからだと読める。
1 つ注意が要る。提案役に Wiki を見せない条件では、整理役ごと外れる。Wiki に書き足す役がいないので、回をまたぐ積み上げそのものが消える。Wiki には採否の台帳も入っているので、落ちた案の記録も提案役には届かない。
| 実行役に Wiki | 提案役に Wiki | 数学 | 調べもの | 表計算 | 長文書 | 平均 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| (skill 無し) | (skill 無し) | 33.0 | 29.4 | 50.5 | 48.6 | 40.4 |
| 見せる | 見せない | 43.8 | 42.0 | 44.4 | 51.0 | 45.3 |
| 見せない | 見せない | 51.3 | 38.4 | 49.9 | 55.2 | 48.7 |
| 見せる | 見せる | 64.8 | 42.8 | 80.2 | 55.6 | 60.9 |
| 見せない | 見せる (既定) | 72.6 | 44.7 | 76.6 | 60.7 | 63.7 |
提案役に Wiki を見せると、平均は 48.7 → 63.7 に上がる。差は 15.0 点。実行役に Wiki を渡した時の差 (提案役にも見せる場合は 63.7 → 60.9 で -2.8 点、見せない場合は 48.7 → 45.3 で -3.4 点) より 4〜5 倍大きく、著者はこれを中心主張の根拠に置いている。数学は 51.3 → 72.6、表計算は 49.9 → 76.6 と動いた。
逆に実行役にも Wiki を見せると、平均は 63.7 → 60.9 に下がる。数学の落ち込みが一番大きく 72.6 → 64.8 だ。表計算だけは 76.6 → 80.2 と逆に上がるが、論文はこの点に触れていない。
理由について論文は推測を述べるにとどめる。解く側が skill でなく Wiki から答えを拾うと、残る作業ログが skill の弱点を映さなくなる、という筋だ。
これは本解説の読みだが、Wiki を外した比較には切り分けきれない点が 1 つある。Wiki を外した条件では、作業ログを読んで原因を書く整理役ごと消えている。つまり「積み上がったから効いた」と「原因を書く役を置いたから効いた」が分けられていない。Wiki を毎回リセットする条件は論文にない。
出典: arXiv:2608.27454 §5.1・表 3 (Gemini-3.5-Flash の家事が検証用タスクで満点になる旨は §4.2)
5 つのタスク・5 つのモデルで、平均はすべて 1 位 (最小モデルは同点)
結果から言うと、5 つのモデルすべてで平均 1 位だった。ただし一番小さい Qwen-3.5-4B は先行手法と統計的に同点で、単独 1 位ではない (08 で詳述)。比べたのは skill 無しの状態と、先行 3 手法 (EvoSkill・Trace2Skill・SkillOpt) が育てた skill だ。先行手法も作業ログを読んで skill を書き直す点は同じで、違いは学んだことの残し方にある。
つまり採否の履歴を残すだけなら先行手法もやっていて、それでも負けた。この論文だけが持つのは、学んだことを症状メモと目次に整理し、整理役が育て続ける別の Wiki だ。
モデルは 5 つ。Qwen と Gemma は誰でも手元で動かせる公開モデルで、4B から 31B はその大きさを表す。Gemini-3.5-Flash は中身が公開されていない Google の商用モデルだ。点数は 5 つのタスクの平均で、単位は %。
| モデル | skill 無し | 先行手法の最高 | この論文 | 先行最高との差 |
|---|---|---|---|---|
| Qwen-3.5-4B | 26.2 | 35.2 | 38.5 | +3.3 |
| Qwen-3.5-9B | 29.9 | 42.3 | 47.4 | +5.1 |
| Qwen-3.6-27B | 39.4 | 53.3 | 63.3 | +10.0 |
| Gemma-4-31B | 41.3 | 49.1 | 54.9 | +5.8 |
| Gemini-3.5-Flash | 49.5 | 56.1 | 68.1 | +12.0 |
1 つのタスクに絞ると差はもっと大きい。Gemini-3.5-Flash の数学は 33.0 → 72.6、表計算は 50.5 → 76.6 になった。Qwen-3.6-27B の家事は 52.8 → 77.6 だ。
先行手法は当たり外れが大きい。EvoSkill は Gemma-4-31B の数学を 33.9 → 29.8 に下げた。SkillOpt は Gemini-3.5-Flash の調べものを 29.4 → 28.2 に下げている。
同じ系列の中では、大きいモデルほど伸びが大きい。Qwen の 3 段では skill 無しからの伸びが +12.3 / +17.5 / +23.9 点と増え、表計算に絞ると +6.5 / +9.3 / +40.9 点だ。ただし系列をまたぐと崩れ、Gemma-4-31B の伸びは +13.6 点で、より小さい Qwen-3.5-9B の +17.5 点に及ばない。持ち帰るのは「skill を育てる効果とモデルを大きくする効果は、別々に効いて重なる」までで、大きさだけで伸びは決まらない。
順位が入れ替わる場面もある。skill 付きの Qwen-3.5-9B は平均 47.4 点で、skill 無しの Qwen-3.6-27B の 39.4 点を上回る。手元の skill を育てれば、1 段上のモデルの素の状態を越えることがある。
「小が大に勝つ」の範囲は狭い。skill 付きの Qwen-3.5-4B が skill 無しの上位 4 モデル全部に勝つのは、数学と調べものだけだ。家事では Gemini-3.5-Flash の素の 85.9 に届かず、表計算と長文書では全敗している。長文書は 30.2 → 28.5 と、自分の素の状態より下がった。
効くタスクと効きにくいタスクがある。Qwen-3.6-27B の伸びは、表計算 +40.9・数学 +28.0・家事 +24.8 に対し、調べもの +14.1・長文書 +11.6 と差が開く。数学は 5 モデル全部で +20.6〜+39.6 点と安定して効く一方、長文書は小さいモデルが多段の検索手順を実行しきれず素の読み方に戻り、わずかに下がる。手順が閉じている作業ほど効く、と読める。
出典: arXiv:2608.27454 表 1・§4.1 (モデル)・§4.2.1 (規模別・タスク別の伸び)・§1 と付録 D.1 (先行 3 手法の残し方)
借りて自作を超える場面がある。逆に壊す場面もある
借りてよい場面は確かにある。育った skill はただのテキストの手順書だから、別のモデルへそのまま渡せる。論文は他のモデルが育てた skill を渡す実験をし、自作を上回る場面を見つけた。
| 使う側 | skill を作った側 | タスク | skill 無し | 自作 skill | 借りた skill |
|---|---|---|---|---|---|
| Qwen-3.5-9B | Qwen-3.6-27B | 表計算 | 24.3 | 33.6 | 50.5 |
| Qwen-3.5-9B | Qwen-3.6-27B | 家事 | 34.7 | 63.4 | 70.2 |
| Gemma-4-31B | Qwen-3.5-4B | 数学 | 33.9 | 56.7 | 73.1 |
| Gemini-3.5-Flash | Qwen-3.5-4B | 表計算 | 50.5 | 76.6 | 18.1 |
表 2 の全マスをこの解説で数え直すと、作った側と使う側が別モデルのマスは 56 通りある (使う側 5 モデル × 別モデルの作った側 2〜3 通り × タスク 5 つ = 60 マスから、Gemini-3.5-Flash が家事の skill を持たない 4 マスを除いた数)。56 通りのうち 49 通りで skill 無しを上回った。自作 skill が無い 2 通り (Gemini-3.5-Flash が家事を解くマス) を除いた 54 通りで見ると、23 通りで自作を上回る。この集計は論文に載っていない。
小さいモデルが作った skill が、大きいモデルを助ける場面もある。Qwen-3.5-4B の skill は Gemma-4-31B の数学を 33.9 → 73.1 に上げた。強い側が良い skill を作るとは限らない。
壊れる例もあり、Qwen-3.5-4B 製の表計算 skill を Gemini-3.5-Flash へ渡すと 50.5 → 18.1 に急落した。原因の 1 つは、小さいモデル向けの逃げ道 (1 行で済ませる書き方など) が、強いモデルの一気に書くやり方を縛ること。もう 1 つは回数で、1 回のタスクで道具を呼べる回数には上限がある。細切れの点検手順はその回数を使い切り、答えに届く前に打ち切られる。
分かれ目の 1 つは skill の中身だ。どのモデルでも通る手順として書かれていれば運べる。そのモデル専用の逃げ道として書かれていれば壊すことがある。
タスクで見ると、数学の skill はよく運べる (Qwen-3.5-4B 製・Qwen-3.6-27B 製とも Gemini-3.5-Flash を 33.0 → 67.5 / 73.9 に上げる)。表計算は組み合わせで大きく変わり、同じ Gemini-3.5-Flash が Qwen-3.5-4B 製では 18.1、Qwen-3.6-27B 製では 63.4 になる。
もう 1 つは使う側の力だ。良い直し方を見つける力と、実際に使いこなす力は別物だと論文は分けて考える。Qwen-3.5-4B が作った長文書の skill は、自分では 30.2 → 28.5 と下がるが、Qwen-3.6-27B では 42.1 → 52.9 に上がる。書いた側と使う側は別でよい。
出典: arXiv:2608.27454 §4.2.2・表 2。56 / 49 / 23 は表 2 の全マスを本解説で数え直した独自集計 (同点は上回りに数えない。Gemini-3.5-Flash の家事は自作 skill が無いため自作比較から除く)
平均の勝ち・小さい検証・1 モデルの比較。土台は思ったより細い
数字は強いが、土台は細い。信じてよい範囲を先に絞っておくと、手元への持ち帰り方を間違えにくい。
Wiki と skill がどのくらいの大きさになるかは、表 4 に出ている。育てる工程 1 セット (8 回ぶん) で Wiki の症状メモは 6〜9 枚、skill 本体は 45〜130 行だ。提案は 1 回につき 1 件で計 8 件、通るのは 2〜3 件。つまり提案の 6〜7 割は落ちる。
| モデル | 提案 (新規 / 追記) | 採用 (新規 / 追記) | skill の平均行数 | 症状メモ (枚) |
|---|---|---|---|---|
| Qwen-3.5-4B | 3.1 / 4.9 | 1.6 / 1.3 | 126.2 | 8.8 |
| Qwen-3.5-9B | 4.6 / 3.4 | 1.4 / 0.7 | 128.6 | 7.3 |
| Qwen-3.6-27B | 4.4 / 3.6 | 1.5 / 0.8 | 118.9 | 6.5 |
| Gemma-4-31B | 4.8 / 3.2 | 1.3 / 0.8 | 45.1 | 6.3 |
| Gemini-3.5-Flash | 2.3 / 5.7 | 1.2 / 1.1 | 81.2 | 8.9 |
費用の読み方にも注意が要る。論文は「skill を育てる工程でモデルを呼ぶ回数は、タスクが何件でも一定」と書く。ただしこれは、練習用のタスクをまとめて 1 回の整理役に渡す数え方だから成り立つ。1 イテレーションあたりの回数を先行手法と並べると次のとおりだ。
| 手法 | 1 イテレーションでモデルを呼ぶ回数 (育てる側だけ) |
|---|---|
| この論文 | 整理役 1 回 + 提案役が考える回数 10〜20 回 = 11〜21 回 |
| EvoSkill | 2 回 × (タスク数 ÷ 一度に見る件数) |
| SkillOpt | 6〜8 回 × (タスク数 ÷ 一度に見る件数) |
| Trace2Skill | 作業ログ 1 本につき 1 回以上 (タスク数を下回らない) |
同じ「全件まとめて」の数え方なら EvoSkill は 2 回で済み、この論文のほうが多い。ただし論文は、先行 2 手法 (EvoSkill・SkillOpt) は小分けにしないと成績が出ないため、実際には回数がタスクの件数に比例する、と反論している (付録 D.2)。「データセットによっては推論の費用が増える」と論文自身も認めたうえで、成績の伸びが見合うと主張する。それでも、この数え方には実行役がタスクを解く分が入っていない。
解く分は大きい。表計算なら 1 イテレーションで練習 80 件 + 検証 40 件 = 120 件を解く。8 回ぶんを 3 セットまわすと約 2,900 件になる (表 6 と付録 A から本解説が計算・本番 280 件は別)。提案の 6〜7 割は落ちるので、検証の実行の大半は戻しに終わる。文字数に応じてかかる分 (トークン量) も数えられていない。
限界は論文自身も 4 つ挙げている。
表の 1 桁小数を、そのまま自分の環境に期待しない。数点の差は読まない。持ち帰るのは数字ではなく、記録の運び方の型のほうだ。
出典: arXiv:2608.27454 表 1 の太字 (p.8 — Qwen-3.5-4B の平均は 35.2 と 38.5 が両方太字)・図 1 (p.1 — 横軸は 4 モデル)・§4.2 (3 セット平均)・§3.2.1 (skill 全文の注入)・表 4 (skill と Wiki の統計)・表 5 (何回目に採用されたかの区分)・表 6・表 7 と付録 D.2 (呼び出し回数)・付録 A (1 イテレーションの手順)・Limitations
論文が決めている規律と、ここから先の当てはめを分けて置く
持ち込めるのは仕組みではなく、順番と規律だ。実験の規模は人の手には重い。正解つきのタスクを数十件そろえ、毎回まるごと解き直す前提だからである。一方、置き場の分け方と書き方の決まりは今日から真似できる。
まず、論文が実際に決めている規律だけを並べる。右の列は、その根拠がある論文の節だ。
| 論文が実際に書いていること | 出典 (論文の節) |
|---|---|
| 直す材料は skill と別の場所に置く。症状メモと目次に整理し、消さずに貯める。実行役には skill だけを渡す | §3.1 / §3.2.1 / §5.1 |
| 直すのは 1 回につき skill 1 つだけ。既存 skill が部分的に正しいなら、新規作成より追記を優先する。「今回は直さない」も正式な出力の 1 つ | §3.2.3 / 付録 E.3 |
| 書く前に、作業ログを最低 4 本読む | 付録 E.3 |
| 整理役は毎回「実行役が skill に従ったか、従って助かったか」を点検する | 付録 E.2 |
| 測ってから採る。過去最高を上回った時だけ採用し、上回らなければ前の版へ戻す。論文自身も「厳格な基準で、今は横ばいでも後で効く直しを落とす」と限界に挙げている (先行手法との公平比較のため採用。より柔軟な基準は今後の課題) | §3.2.4 / Limitations |
| 落ちた案を捨てない。差分ごと台帳に残し、次の提案役に「同じ案を出すな」と読ませる (採否の履歴を持つ点は先行手法にもある) | §3.2.4 / 付録 E.3 |
skill の隣に「なぜ生まれたか」を 1 枚置く (PURPOSE.md)。型は SKILL.md が 4 つの部分 (先頭の説明欄・使う時・使わない時・手順)、PURPOSE.md が 3 つの部分 (由来・対処した症状・変更履歴) | §3.1 / 付録 E.3 |
| 短く書く。症状メモは 1 枚 10〜30 行、目次は 1 件 1〜2 文で「問題 + 原因 + 直し方」。短いのは症状メモと目次で、skill 本体は 100 行前後になる | 付録 E.2 / 表 4 |
以下は当てはめの推測だ。論文は Claude Code にも CLAUDE.md にも触れていない。性質が似ている置き場へ寄せた、という以上の根拠は無い。
CLAUDE.md と .claude/skills/ は skill の側。実行中に必ず読ませるからだ (推測)docs/wiki/ のような別の場所を新しく作り、実行中には読ませない。作業の種類ごとに Wiki を分けるほうが、論文の条件 (タスクごとに Wiki 1 つ) に近い (推測)真似できない部分もはっきりしている。この仕組みは、正解付きのタスクが数十件あって自動で採点できることを前提にする。採点できないなら、採用を決める関門が回らない。加えて論文は skill の全文を毎回渡していて、skill の説明文 (description) で skill が選ばれる Claude Code とは前提が違う。
1 つだけ始めるなら、症状メモと目次だ。skill を直す前に、うまくいかなかった症状を「問題 + 原因 + 直し方」で 1 枚に書き、目次に 1 行足して、消さずに貯める。採否の台帳だけなら先行手法も持っていて、それでも負けた (06)。自動の採点が無くても、次に直す時の最初の材料はそこに貯まる。
出典: arXiv:2608.27454 §1 (先行手法が持つ履歴)・§3.1・§3.2.1・§3.2.3・§3.2.4・§4.2.1 (タスク別の伸び)・§5.1・付録 E.2 / E.3・表 4・Limitations