LLM にサイトのナビゲーション設計を頼んだら、項目だらけの索引が返ってきた — そんな経験はないだろうか。原因は性能不足ではなく、「削る」という仕事と LLM の作られ方が逆向きだから、というのが本稿の仮説だ。
ヘッダーに 5 項目を残すとは、40 個の候補から 35 個を捨てる判断のこと。
ヘッダーに 5 項目を残す仕事は、5 個を「作る」仕事ではない。40 個の候補から 35 個を「捨てる」仕事だ。サイトやアプリには載せられる候補が常に大量にある。機能、設定、お知らせ、ヘルプ、キャンペーン。
設計者の仕事は、その全部に優先順位を付けて、大半を置かないと決めることにある。ところが LLM は、この「捨てる」がいちばん苦手だ。
本稿の主張はこうだ。LLM が階層設計でつまずくのは能力不足ではない。「削る」という仕事の性質と、LLM の作られ方が逆向きだからだ。理由を 5 つに分けて示す。なお本稿は仮説の整理であり、実測データに基づく研究ではない。
網羅バイアス: 漏れなく載せようとする癖。足すコストをモデルは払わない。
LLM は「漏れなく答えること」を良い応答として学んでいる。だから、削ることが失敗のように扱われてしまう癖がついている。本稿ではこれを網羅バイアス (= 漏れなく載せようとする癖) と呼ぶ。
しかも、項目を足すコストをモデル自身は払わない。画面が煩雑になる、ユーザーが目で探す手間が増える — この代償は生成した本人には見えない。結果、放っておくと「全部載せた索引」に寄っていく。
階層設計の中核は「これは重要でないと宣告する勇気」。LLM はここが構造的に弱い。
辞書としては正しいが、導線としては死んでいる階層ができる。
良い情報設計は「それが何であるか」ではなく「人が何をしに来るか」で組む。存在の分類ではなく、タスクと頻度の分類だ。
人間の設計者は、この判断をアクセスログやユーザー観察という外部データで決める。LLM はそのデータを持たない。代わりに意味の近さで束ねる。
| 観点 | 意味で束ねる (LLM が自然にやる束ね方) | タスクで束ねる (人間の設計者) |
|---|---|---|
| 束ねる根拠 | 語と概念の近さ | アクセスログ・ユーザー観察 |
| 得られるもの | 辞書 (それが何か分かる) | 導線 (目的地に早く着く) |
| 一等地の決め方 | 決められない (近さから出ない) | 頻度と重要タスクで決める |
似ているものを集める作業は LLM の得意分野だ。しかし、どの塊がヘッダーの一等地に値するかは、似ている度合いからは出てこない。結果は「辞書としては正しいが、導線としては死んでいる階層」になる。
階層の全体を同時に見て守る制約を、先頭から順に書きながら守ることはできない。
同じ階層に並ぶ項目は、粒の大きさ (抽象度) が揃っていなければならない。「製品」の隣に「料金の FAQ」が並んだら破綻だ。
これは階層の全体を同時に見て、初めて守れる制約だ。ところが文章の生成は先頭から順に、局所的に進む。だから書いているうちに粒の大きさが少しずつずれていく。
3 階層になるとさらに悪化する。項目が増えるほど「これはあの項目と並ぶのか、下にぶら下がるのか」という判断が掛け算で増える。しかも上位の切り方を 1 つ間違えると、その下が全部歪む。誤りが増幅する構造なので、深くなるほど下手に見えるのは必然だ。
何百万のナビを見ても、「40 を 5 に絞った」過程は 1 つも見ていない。
モデルは学習で何百万というナビバーを見ている。だが見えているのは、排除判断が終わった後の表面だけだ。
「分析の結果、40 項目を 5 つに絞った」という選抜の過程は、公開された Web ページには写らない。写るのは完成品だけ。つまり、何百万のナビを見たことは、何百万の「削る判断」を見たことにはならない。
だから EC サイトのような定番の形は、型としてうまく再現できる。崩れるのは、型の無い新しい分野で、選抜の工程そのものを回す場面だ。
人間は作りながら頭の中でユーザーとして歩く。LLM は宣言して一発で終える。
人間の設計者は、作りながら頭の中で歩く。「初見のユーザーが請求書を探しに来た。最初にどこをクリックするか」。
LLM は明示的に求められない限り、この「頭の中で歩く」検証をしない。構造を宣言して一発で出し、そこで終える。自分の作った階層の行き止まりに、自分で気づく工程が抜けている。
人間の設計者が使う外部のデータと、繰り返し直す工程を組み込む。
この仮説が正しいなら、対策の向きも決まる。人間の設計者が使っている外部のデータと、繰り返し直す工程を、LLM の作業に組み込めばいい。経験上、半分ほどはこれで補正が効く。
逆に言えば、この手当てなしの一発生成は「意味の辞書」だと割り切って見る。導線として使う階層には、削る工程を別に用意する。